飽和潜水2022年05月10日 21時27分58秒

飽和潜水 非対応
北海道・知床沖の観光船沈没事故で、飽和潜水でダイバーを沈没した観光船内に送り込み、乗客が取り残されていないか調査するんだそう。観光船は水深120mに沈んでいるというから通常の潜水で潜れる深度をはるかに超えていて、ヘリウムガスを使った飽和潜水という特殊な方法を使っての作業となるらしい。

飽和潜水と言うとヘリウムエスケープバルブ付きの300mを超える防水時計を思い出す。イマイチ原理を理解していなかったんだけど、いい機会なので勉強してみた。ネット上に幾らでも詳しい解説があるので興味のある人はそちらを見て欲しいんだけど、簡単にまとめるとこんな感じ。

海中に深く潜れば潜るほど、陸上とは比べ物にならない程の高い圧力(水圧)が人体に掛る。高い水圧下では肺が潰れてしまうため、水圧と同じくらい高い圧力の空気を吸う必要がある。大気に多く含まれる窒素は人体に吸収され易く、高い圧力下では体内に多くの窒素が取り込まれ、体内の窒素濃度はこれ以上取り込むことができない飽和レベルに達する。逆に体にかかる圧力が減少すると、飽和レベルにあった窒素は体内から排出される。その減圧の速度が速すぎると体内からの窒素の排出が追い付かず、血液内で気化するなどして減圧症を引き起こしてしまう。

そこで潜水の前にヘリウムと酸素を混合したガスを満たした環境(船上の加圧室)で目的の水圧と同じ圧力まで徐々に加圧し、体内にヘリウムを飽和レベルになるまで吸収させておく。人体を目的の水圧と同等の圧力に慣らしたうえで、その圧力を保ったカプセルの中に入って目的の深度までダイバーを送り、カプセルの外に出て潜水活動を行う。活動完了後はカプセルに戻り、船上の加圧室に戻って減圧症を発症しない速度でゆっくりと減圧する。深度にもよるが、減圧には数日を要する事もある。

飽和潜水は原理的には通常の大気でも可能だが、「酔い」を防ぐ目的で窒素の代用としてヘリウムガスを使う。窒素ガスは人体に多く取り込まれると麻酔効果が表れ、窒素酔いと呼ばれる症状が発生する。それを軽減する為にヘリウムと酸素を混合した気体を使用する。高い圧力の環境下では呼吸をするにも大きな体力を必要とするが、ヘリウムは窒素よりも分子量が小さいため比較的呼吸抵抗が減らせるメリットもある。

ダイバーにとって潜水時間を確認するなど腕時計は重要なツールの一つなので、作業中も常に腕時計を身に付けている。一方ヘリウムは分子量が小さく、腕時計のゴムパッキンを透過して潜水用腕時計の内部にも浸入してしまう。飽和潜水では気圧の高い環境下に長時間晒されるので、腕時計内部の圧力も高くなる。

潜水活動中は腕時計内の圧力と水圧は相殺する関係なので問題はないが、減圧過程では時計内部の圧力が相対的に高くなり、腕時計の風防を破損させるなどのトラブルが発生する。腕時計内部の残留圧力による破損を防ぐ目的で、飽和潜水に対応したダイバーズウォッチにはヘリウムガスのエスケープバルブを備えたモデルが存在している。